世界ランキング1位！68歳のスイマー 藤巻 智(あきら)さん

夢をあきらめず努力し、念願の日本新記録を樹立

甲府市相生の中楯スポーツセンターで水泳コーチをしている藤巻智さんは、今年4月に発表された「国際水泳連盟2010年度マスターズ世界ランキング」の200m自由形で1位、100m自由形で2位になった競泳選手です。昨年3月に出場したマスターズスイミング選手権大会の65～69歳区分で、100m自由形、200m自由形ともに念願だった日本新記録を樹立、この記録により世界ランキングの頂点に登りつめました。

「それはもううれしかったですね。前年度は6位だったので、3位か4位あたりにはなれるかなと思っていましたが、世界1位というのは格別ですね」と声を弾ませます。さらに「頑張ればなんとかなると、改めて実感しました」と力を込めます。

藤巻さんの信条は「夢をあきらめない」、そして「日々、努力」。「本当は65歳の時に日本新記録を出すことを目標にしてきましたが、0.3秒の差で敗れ、涙をのみました。でも夢はみるものでなく、叶えるもの。あきらめず、目標を達成するために必死で練習しました」。その結果として得られた世界ランキング1位。まさに自らの手で勝ち取った栄冠です。

県初のクラブ専属コーチとして五輪選手を育成

藤巻さんが水泳を始めたのは中学3年生の時。校内の水泳大会でいいタイムを出したことから先生にすすめられて競泳を始め、高校1年の時に国民体育大会に初出場。高校時代に400m、800m自由形で山梨県新記録を出すなど、トップ選手に成長しました。

27歳のときに「甲府スイミングスクール」のコーチに就任。山梨県初のスイミングクラブ専任コーチとなり、五輪代表の三科典由さんや輿水秀香さんなど、競泳界を代表する選手を育ててきました。現在、県内の各スイミングクラブの指導者の多くも藤巻さんが教えた生徒さんたち。「スクールの1期生をはじめ多くの教え子が今、指導者として頑張ってくれています。本当にうれしいことです」と目じりを下げます。

そんな水泳一筋だった藤巻さんですが、35歳からは一般企業に勤め、62歳で退職するまでは水泳とは離れた生活を送っていました。再び藤巻さんの水泳魂を目覚めさせ、競技の世界へ引き寄せたのは、ある新聞記事だったといいます。

「ある日、新聞を見ていたら水泳の記録が載っていて、そこに高校時代のライバルの名前を見つけたんです。すごいなと思うのとともに、これは負けていられないぞと思ったんですよね。そこから65歳で日本新記録樹立という夢への挑戦が始まりました。昔から負けず嫌いですからね（笑）」。

夢を追い続け実現していく姿が、子どもたちの励みに

今年7月に68歳になった藤巻さん。「次の目標は70歳で世界新記録を樹立することです。新たな目標に向かってまた動き始めますよ」と目を輝かせます。

まだ本格始動はしてないそうですが、毎朝2500mを泳ぐ日課は欠かさず、またコーチとしても忙しい日々を送っています。

「今は幼稚園生を中心に指導していますが、子どもたちは私のパワーの源ですね。コーチの私が目標に向かって頑張ることが子どもたちの励みとなり、みんなが夢に向かって頑張ってくれればと思っています。その夢は、決していい成績をとることや速く泳ぐことだけではありません。地道な練習を続け、自分のベストを追い続けることも大切。それができる子は社会に出てからもしっかり生きていけます。水泳を通して、そんな生きる力を育てていきたいです」と熱く語ってくれました。

最後に水泳の魅力を伺うと、「水泳は自分との戦いのスポーツ。偶然によってもたらされる勝利はなく、自分が頑張るしかない自己責任のスポーツです。だからこそ楽しいんですよね」とにっこり。その笑顔は日々の努力から生まれる自信と、新たな夢に向けての意欲にあふれていました。70歳での世界新記録樹立への挑戦、期待しています。