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更新日:2023年9月5日

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市民団体「リズムオブラブ」 渡辺光美さん

活動を続けることができているのは「協働」の仕組みをつくったから
人から人への紹介で広がってきた活動だからこそ、原点の想い、支えてくれた人たちを大切にしています

2022年度「甲府市女性活躍推進チャレンジ女性の部」を受賞された渡辺光美さんは、“かけがえのない大切な命を自分で守る心と体づくり”を目指し、健康・安全に関わる課題解決を目的に「山梨発信!健康安全郷育プログラム」を地域に出向いてお届けする市民団体「リズムオブラブ」を主宰しています。教員時代に「このままでは目の前の子どもたちを守れない」という想いから考案した「健康安全郷育プログラム」は、人から人へ紹介され、渡辺さんの想いとともに「学校」を飛びだし、今では山梨全体に広がっている。「安全教育という分野は世の中に必要なものだけれど、なかなかお金になりにくい。だから協働という仕組みを大切にしてきた。」と言う渡辺さん。無名の頃から自身の活動を応援してくれている方々を大切に、活動の幅を広げ、県内外で活躍されている渡辺さんの姿からは、ご自身の想いを実現していくために「起業」ではなく「市民活動」として継続していこうという強い意志が伝わってきます。

目指しているのは「郷育」


「リズムオブラブ」は“かけがえのない大切な命を自分で守る心と体づくり”を目指し、健康・安全に関わる課題解決を目的に「山梨発信!健康安全郷育プログラム」を地域に出向いてお届けする市民団体です。

私たちがお届けするプログラムは、危険察知・回避能力や基礎体力の向上、健康・安全の知識・技術の習得だけでなく、人に愛され、存在を大切にされている実感が自己肯定感・信頼感を育み、自己防犯・防災意識につながるということを共に考える教育・郷育・響育プログラムです。リズム運動・体操・遊びに格闘技や礼儀作法の要素を取り入れた生涯学習、生涯スポーツレクリエーションとして楽しく学べます。

「リズムオブラブ」のリズムは、生命の源である母親の心臓の鼓動を、ラブは郷土愛・人間愛を意味します。私は活動をする時、いつもこのロゴ入りの赤いTシャツを着ているんです。赤い色は見た人に元気・勇気を与えることがきますからね。

15年間やり続けてきたことは「郷育(きょういく)」をとおした「元気で明るく安全なふるさと山梨創り」。
「郷育」の中には「ふるさと山梨みんなで一体となって、健康・安全の課題を解決する」という思いを込めています。


この活動をしていて嬉しい瞬間の一つが、プログラムを受ける時、最初硬直した顔をしていた方たちの顔が緩んで笑顔になり、みんながその空間で一つになった瞬間。「リズム・オブ・ライブ!」みたいだと言った人がいましたけど、心がウワってなる瞬間がたまらないんですよ。

 

教員生活の折り返し地点での決断〜山梨という「大きな学校」を活動の場に〜

2001年に起きた「大阪教育大学附属池田小事件」をご存知ですか?
学校は安全だという認識が崩れ、児童8人が校内で殺傷されるという痛ましい事件。
当時小学校の先生だった私は、「このままでは目の前の子どもたちを守れない」という危機感を抱き、学校現場で「健康安全郷育プログラム」の原型を考案したんです。
そして、そのプログラムを学校の体育や道徳、学級活動で教えたり、運動会やPTAの活動として取り入れたりしていました。


最初は学校の中だけで活動をしていたのですが、「公民館でやってもらえませんか?」とお声掛けをいただき、公民館での活動を始めました。そしたら、噂が一気に広がり、気づいたら甲府市のほとんどの公民館で活動していました。

平日は小学校で先生を、休みの日は公民館で活動をする慌しい日々。
その頃、42歳だった私はちょうど教員生活の折り返し地点に立ち、自身の今後について考えました。

「命の大切さ」を伝える時、先生としてでは、目の前の子どもにしか教えられない、目の前の子どもしか守れない…。
小学校3年生の時に学校の先生になることを夢見てから、先生になるために頑張り続け、先生になってからは近寄ると熱いくらいのまさに“熱血教師”そのものだった私。目の前にいる子どもたちのための教育は十分にやってきたという自負もあり、これからは山梨という「大きな学校」でやらなければいけないとう想いで、教員を辞め、活動をしていく決心をしたんです。

 

私が打たれ強いのは、「覚悟」と「実感」があったから

教員を辞めて、最初にやったことは山梨県内の全ての小学校・幼稚園・保育園等に自身の活動を知ってもらうためのチラシを持って周ることでした。もちろん門前払いされることも多かったです。それでも心が折れずに続けれられたのは、辞める時に上司・同僚・保護者・子どもたち…多くの方々に反対されたにも拘わらず「それでも」という覚悟を持って決めたことだったから。

それに教員を辞める頃に身内にいくつかの不幸があったんですよね。父が42歳の時に検診で病気が見つかり、14年間闘病生活を送ったのですが、志半ばで逝ってしまったのです。自分も当時42歳、その年齢からずっと病院の天井を見て過ごすと思うとたまらなくなりました。それにわが子も生後3ケ月の時に生死をさまよい手術をした経験があって、人の生死というものを身近な出来事として実感したんです。だから、私のプログラムに触れて、一人でも二人でも、やっぱり生きていこうと思う子どもが現れたり、やっぱりもう1回生き直してみようかなって思う大人が現れたり、命について考えるきっかけになってくれればという想いもあっての活動なので、ちょっとやそっとのことではめげない、打たれ強いんですよ。

 

 

活動の中で大切にしていること〜「協働」と「実践者であり続けること」〜


どんなものでも、創意工夫しないと3年経つとなくなると言われますけど、「リズムオブラブ」も単体で活動していたら、たぶん3年は持たなかったと思います。「光美さん、15年よく生き延びたね。秘訣は何ですか?」ってよく聞かれるんですが、私は「協働」の仕組みを作ってきたからだと思っています。

私が提供しているのはプログラムという知的財産で、何か「モノ」を売るわけではないんですね。私が活動している「健康・安全」という分野はなかなかお金になりにくい、だけど世の中に必要なものなんです。実際に、現在活動する中で県や市のほとんどの部署と関わりを持たせていただいていて、市民生活に直結しているジャンルなんだと改めて実感しています。「健康・安全」に関する課題は地域ごとに違います。なので、組織では対応しきれない部分がどうしてもある。だから、私が山梨県内の27市町村に出向いて行って、それぞれの地域に応じた課題を解決する、行政の手が届かないところに手を伸ばすということが私の活動だと思っています。

そして、もう一つ大切にしていることは「実践者」でいること。この活動を始めた頃、山梨県ボランティアセンターには「苗場」(実践者を育てる場所)の機能があり、私も学びに行っていました。そこには私の恩師である故・岡尚志さんがいらっしゃったんです。岡さんは、私の活動を見ていて「あなたは実践者でいなさい」とおっしゃいました。「NPOにしたり、企業にしたりすると、運営や事業を継続するために労力を吸い取られて、本当のあなたの想いが、いずれ吸い取られるぞ」って。
 

実際に、活動が大きくなるにつれて、何度も選択を迫られました。「企業にしたほうが良い」とか「NPO法人にしたほうが良い」と周りから言われることも多く、私も法人を設立できるだけの勉強はしてあります。でも、そのたびに恩師の言葉を思い出して今まで「実践者」であり続けています。この選択が果たして本当に良かったのかは、この先になってみなければわからない。でも、コロナ禍に活動が一切できなくなった時には法人化していなくて良かった、もし法人化していたら多くのスタッフを路頭に迷わせていたかもしれないと思いましたね。

 

私の財産は「人財」

私は、1ヶ月に1,000人以上、年間にすると1万人以上の方にお会いしていて、誰よりも人と出会えているのではないか、「有り難う」という感謝の言葉も人一倍いただけているのではないかなと思っています。人と出会えて、いろんな人の生き方に触れる、その中でいろいろなことを学ばせてもらえ、自分が生きられなかった分の人生の話を聞かせていただけることが私の財産「人財」です。

そして、一番の励みは「先生、次もお願いします」と言われること。ダメだったら「次もお願いします」と言われないから。
私の活動は本当に人から人への紹介で広がってきたんです。
公民館や市町村で主催する活動や自主サークルからスタートし、市民の方々に知っていただき、様々なところに講師として呼んでいただくようになり、ここまできたので、この言葉が一番嬉しいですね。

 

新たな挑戦をはじめます


私がこの活動を始めた時は「命を守るため」「被害者にならないように」と、命の守り方を教えてきました。
でも、最近は「加害者・傍観者を作らない」ことも重要だと思っています。保護者の方たちにも加害者・傍観者にならないように子育てしましょうというお話をさせていただいています。

私がやってきた活動を「木」に例えると、今までの活動は目に見える葉っぱや枝の部分だった、これからは木の根っこの部分、人権教育や性教育を教えていかなければならないと思っています。お母さんたち、家族にしっかりと命の大切さを伝えていく教育が一番の根っこだと気づいたんです。性教育の「性」という字は「りっしんべん(=心の字形から転じた偏)」に「生きる」と書きます。つまり、性教育とは、心を生きる教育であり、互いの存在・命・気持ちを大切にする・大事にする・守る教育だと思うんです。人を大切にする教育(人権教育)と心を生きる教育(性教育)を幼少期からやっていくことがとても大切。
今まさに、私が無名の頃から講師として呼んでくださっている保育士の方が幼少期からの「性教育」一緒にやっていきましょうと言ってくれているので、今後プログラムを考案していく予定です。

 

原点を大事にすることを忘れないで


今の私があるのは、私が駆け出しの無名の頃に、私のプログラムを取り入れてくれた方々のおかげさまだと思っています。だから、そういう方々からお声掛けをいただいた時には最優先にしています。今でも会うたびに「あの時はありがとうございました」と伝えています。

恩師である岡さんにも「満ち潮の時ほど膝をついて海の中にいなさい」と言われ続けました。満ちている時に立つと引き潮の時に足をすくわれる、満ち潮の時ほど謙虚でいなさいということ。活動が広がっていくかもしれないけど、広がれば広がるほど謙虚でいなさい。その気になってもいい気になるなよ!」といつも言われていましたね。
原点を大事にしない人は、いつか辛い思いをすると私は思っているんです。根っこを大事にするということ。原点の想いを大事に、支えてくれた人たちを大事にしてほしいですね。

そして、自分が何をやっていきたいのか、どんなジャンルなのかによって、会社にするのが良いのか、個人事業主にするのが良いのか、NPO法人が良いのか、任意団体が良いのか、選択することが大切です。お金として還元できる活動なのか、そもそも市場はあるかなど、世の中をよく見て欲しいですね。起業すれば全員がキラキラ輝けるわけではないので、ご本人はもちろん、支援する側の方々にもしっかりと考えてほしいです。

 

渡辺光美さんのご紹介

リズムオブラブ主宰 やまなし大使
東京2020聖火ランナー/健康安全郷育アドバイザー/ミットパーカッション®プロデューサー/森林セラピスト®/防災士
山梨県総合計画審議会委員/山梨県公安委員会警察署協議会委員/山梨県公益認定等審議会委員

山梨県生まれ、甲府市在住。都留文科大学卒業後、公立小学校・幼稚園の教諭を20年間務める。2009年に「かけがえのない命を大切にできる心と体づくり」を目的とした「リズムオブラブ」を設立。乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層を対象とし、受講生の体力や環境に応じた、自身考案の「健康安全郷育プログラム」の指導に当たる。山梨県警察、YBS山梨放送と協働し、「電話詐欺撲滅キャンペーン」や「反射材着用キャンペーン」を実施。山梨県教育庁幼児教育番組「子育て日記」(YBS山梨放送)企画運営員として指導、「子育て日記~ワンポイント安全講座~」(2019年度)を考案・出演。山梨ライブ「ててて!TV」(YBS山梨放送)「ててて!リズム運動」を考案・出演、「ててて!おうち体操」を協創・出演。FM甲府・FM富士五湖のパーソナリティーとして地域の健康安全啓発。

>>>詳細は「リズムオブラブ」ホームページへ(別サイトへリンク)