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更新日:2024年3月14日

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苺屋あとりゑ 木之瀬有香 さん

「苺屋あとりゑ」らしい付加価値をプラスしてイチゴの魅力を多くの人に届けたい

イチゴの種子生産や新品種開発に携わっていた木之瀬さんは、検品のために1日に300個程食べても飽きることがなかったイチゴの品種による見た目や味の違いに魅了され、「いちご農家」へ転身。2022年12月、ご夫婦が厳選した14品種のイチゴの食べ比べができる観光いちご園「苺屋あとりゑ」を甲府市上曽根町にオープンされました。
大切にしていることは、「イチゴの魅力を伝える」こと。価格競争をするのではなく、自分たちの農園を選んでもらえるように、「ワクワクするかどうか」を基準にサービスや販売方法などに「苺屋あとりゑ」らしい付加価値をプラスされています。
「キッチンカーを始めたことで、普段お会いすることができないお客様にも出会えることができて嬉しい」と話される木之瀬さんは、お客様はもちろん、送り先の方々や事業を通して出会う方々まで、出会った方々とのご縁を大切にされています。忙しい農園経営の傍ら、オリジナルの品種開発にも挑戦されている木之瀬さんは、研究熱心で、イチゴ愛溢れる素敵な女性です。

イチゴの魅力に感動!この感動を多くの人に伝えたい


小さい時から植物や果物が好きだった私は、大学でシクラメンやイチゴの高品質栽培について研究し、卒業後は種苗会社でイチゴの種子生産や新品種開発に携わっていました。
仕事をする中で、イチゴを1日に300個程食べることもあったのですが、たくさん食べても全く飽きることも、嫌になることもないことや、品種によって見た目や味が全く違うことに感動し、イチゴの魅力を多くの方に伝えたいという思いを持つようになりました。
また、新しい品種を産んでも、作る人がいないと広まらない、発信をしないと知ってもらえないという歯がゆさ、自分の作った実を実際に食べ比べてもらって、お客様の反応を見たいという思いもあり、いちご農家になろうと決意しました。

 

 

夫婦二人三脚で新規就農の準備 一番の不安は資金調達


いちご農家になることを決意してからは、夫と役割分担をして準備を進めました。
私は技術を習得するため、会社を退社し、新規就農支援制度を利用して観光いちご農園に1年間研修に行き、事業計画を作成することに集中し、その間、夫には生活費を稼いでもらいました。

新規就農をしようと思った時に一番不安だったのは資金調達でした。
いちご農家さんにお話を伺ったところ、想像以上にお金がかかることが分かって不安になりましたが、農業用の融資制度は充実していますし、新規就農支援の制度もあるので、情報を集めて複数の制度を利用することで無事に資金を調達することができました。



農業用の制度だけではなく、創業時に使える補助金の利用やクラウドファンディングでの資金調達、不要になったハウスを解体する代わりに柱などの資材をいただくなど、活用できるものは全て活用しました。資金面以外にも、土地探しや認可申請など新規就農する際に必要な準備や手続きはたくさんあります。
一人で考えていても解決できないことが多いので、親せきや知り合い、実際に事業をされている方、農業委員会や農業センターといった公的機関など、とにかく多くのところに相談し、情報を集めることがとても大切だと感じました。

 

 

私たちを選んでもらうために全てのサービスに付加価値を

実は私達がビニールハウスを建てようとしていた時に、ちょうどロシアによるウクライナ侵攻が始まり、物価がとても上昇したので、見積りを取っていた当初の金額よりも資材代が高騰してしまいました。そのため、初期の投資金額が既存の農園さんの倍以上は掛かってしまい、既存の農園さんと同じ金額で事業をしていると採算が合わないということがわかり、どのように差別化していくのかということを大切に計画を立てていきました。


私たちはもともと品種の違いやあまり知られていない品種の良さなど、イチゴの魅力を多くの方に知っていただきたいという思いでいちご農家を始めたので、とにかくたくさん食べたいというお客様ではなく、いろいろな味のイチゴをゆっくり食べたい方、「食」への感度が高い方に来ていただきたいと考えています。そのため、少人数でのお席制とさせていただき、多品種を食べ比べていただく形式のいちご狩りを提供しています。

私たちの価値は、ただイチゴを食べていただくのではなく、1つのテーブルでご家族や友人とコミュニケーションをとっていただきながら、イチゴの味や見た目の違いなどを楽しんでもらう、会話を楽しんでもらうことだと思っています。そのため、価格については他の農園さんよりも高くなってしまいますが、それでも私たちを選んでいただけるように、ハウス内の環境を整えたり、お土産用のイチゴにも食べ比べができるものを用意させていただいたり、全てのサービスに付加価値を付けられるように工夫しています。

 

大切にしているのは「ワクワクするかどうか」


私たちのハウスの規模は一般的なハウスの半分ほどなので、当初は夫婦2人で運営していく予定でした。でも、ご案内を丁寧にしたり、写真撮影のサービスをしたり、発送作業やSNSの更新をしたり、いわゆる「農家の仕事」以外のことにも時間をかけているので、今はパートの方にも少しお手伝いしていただいています。農業は繁閑の差が激しく、人を年間雇用することが難しいため、今来ていただいているパートの方も、冬と春のみ来ていただいています。

1日にたくさんのお客様を受け入れる形式にすれば、お客様がイチゴをすべて採ってくれるので手入れも少なくすみ、2人でも経営していけると思います。でも、私たちは食べ比べを推している農園なので、なるべく多くの品種を食べていただけるように1日に入っていただくお客様の組数を制限させていただいていているので、いちご狩りの後に残るイチゴが多く、その分、いちご狩り以外の方法での販売に割く時間が多いんです。
 


販売方法を考える時に大切にしていることは「ワクワクするものかどうか」ということ。株オーナーや定期便、食べ比べパックなど今提供しているサービスはどれも「ワクワクする」を軸に始めました。イチゴは生ものなので、新しいことを始めてみて売れなかった場合、賞味期限があるため全て廃棄することになってしまうという怖さもあります。でも、私たち夫婦は私がやりたいことやワクワクすることを考えて、夫が人件費や収益性といった経営的なことを考えてくれているのでバランスが取れているのかなと思っています。

 



それでも、開業してからの2年間は試行錯誤の連続で、開業当初は忙しすぎて体調を崩したこともありました。でも人を増やそうとは考えていません。人口が減ってきている今、規模を大きくしたり人を増やしたりするのではなく、この規模でどう経営していくかということを考えていきたいと思っています。

イチゴは他の作物に比べて繁忙期が長いので大変な部分も多いのですが、イチゴに手がかからない夏の時期にキッチンカーでの販売をしたり、繁忙期でも夜の農園でイチゴやお料理、生演奏などを楽しんでいただくイベントを開催するなど、試行錯誤しながら、ワクワクと収益のバランスをとっていきたいと考えています。
 

 

出会った方々との繋がりを大切に


もうひとつ大切にしたいものが「出会った方々との繋がり」です。
開業の準備をしている時は、ご自身で事業をされている方にお会いして、いろいろな方との繋がりを作るようにしてきました。
葡萄屋Kofuさんや元スターバックスコーヒーのコーヒースペシャリストの松田賢哉さんなど、現在コラボさせていただいている方々ともご縁やご紹介で巡り合うことができました。

お客様との出会いも大切にしたいと考えていて、お客様に選んでいただける、訪れたくなる「農園」になりたいという思いのもと、お店づくりを工夫しています。商品を買いたい、誰かにあげたいと思ってもらうには、商品の魅力だけではなく、作り手やお店の雰囲気も大切だと思うんですよね。特に贈答用のイチゴを受け取ったお客様はSNSやホームページを見てどんな農園なのかという情報を得ると思うので、写真や見せ方にもこだわりを持っています。

また、キッチンカーを始めたことで、普段会うことができないお客様にお会いできることもとても嬉しく思っています。逆にイチゴのシーズンではない時にも普段農園に来てくださる方々がマルシェの会場などに足を運んでくださることもあるのは、本当に嬉しいですね。その他にも、株オーナーとしてシーズン中、定期的にイチゴをお届けさせていただくお客様がいたり、クラウドファンディングをとおして開業時から応援してくださる皆様がいたり、オンラインで購入してくださった方がいちご狩りや夜に開催しているイベントに来てくださったり、お客様とも一度きりの関係ではなく継続した関係を築いていけるように工夫しています。それと同時に、県外から人を呼びたいという思いもあるため、お取引させていただく飲食店さんも県外の方もターゲットとされているところを中心にさせていただいたりもしています。

 

自分の「いいな」と思う気持ちを大切にしてほしい

 


私自身もまだ始めたばかりで、農園の経営と、もう1つの目標「自分の品種を作ること」を目指し、日々試行錯誤しながら過ごしています。

何かを始めたいと考えている方には、自分が「いいな」と思う気持ちや好きなことを大事にしてほしいなと思います。日々感じている好きなこと、いいなと思うこと、不便だなと思うことを、事業に活かせたら、今ないものができるのではないかと思うので、日々の気づきを大事にしてほしいと思います。

私自身、お客様の目線というものを大事にしていて、お店やテーマパークに行った時に感じたことをなるべく覚えておくようにしています。「こういうところにワクワクするな」とか「こうだったら良いのにな」とか「こういうところにファンがついているのか」とか「商品の並べ方はこうか」とか「この色の使い方は良いな」とか日常の中で常に考えています。この間も気分転換でゲームをしている中からアイディアが浮かんだこともあったくらい、本当にいつも考えています。

そういうふうに、常に情報をインプットして、良いと思うものは自分の事業の要素として取り入れていく、という積み重ねが大事なのかなと思っています。

 

 

 

 

苺屋あとりゑのご紹介


■事業内容
 通販、直売、いちご狩り
■営業時間
 Season:11~5月 ( いちご狩りは生育状況次第となります )
 Open:10:00〜16時00分 ( いちご狩り最終受付 15時00分 )
 Close:火曜日
■住所
 甲府市上曽根町4303
■お問い合わせ先
 ichigoyaatorie@gmail.com / 080-5101-6764
■インスタグラム
 https://www.instagram.com/ichigoya.atelier/(別サイトへリンク)