ホーム > 女性活躍 > 輝く起業女性の紹介 > anlib株式会社 代表取締役 堀内麻実さん

更新日:2024年4月1日

ここから本文です。

anlib株式会社 代表取締役 堀内麻実さん

「家庭のある女性が働きやすい環境をつくりたい」「障がい者の方と地域をつなげていきたい」

2023年度「甲府市女性活躍推進チャレンジ女性の部」を受賞された堀内麻実さんは、「家庭のある女性が働きやすい環境をつくろう」とチラシや冊子のデザイン編集を行うanlib株式会社を2018年に設立されました。ライフスタイルの変化に伴い、職種や働き方を変化させてきた堀内さんですが、「編集の仕事を続けたい」「子どもたちに「おかえり」と言える生活を送りたい」という思いを大切に、35歳で独立の道を選択されました。

常に「私は何がしたいんだろう?何をしたくないんだろう?」ということを軸に考え行動されている堀内さんは、一人の障がい者の方との出会いをきっかけに福祉事業を展開することに。当初は当事者ではない自分が福祉について発信して良いのかと悩んだという堀内さんですが、「第三者だからこそできることがある」と決心し、現在は障がい者の方と地域をつなぐ様々な事業を展開されています。「小さいことからでも常に挑戦し続けることが大切」と話される堀内さんの行動される姿が、福祉関係の方や福祉への関わり方がわからないという方たちの背中を押して、地域の中に新しい福祉の輪が広がっています。

寝なくてもいい」と思えるほど楽しくて大好きな編集の仕事


中学生時代からファッションがすごく好きだった私は、ファッション誌の中に出てくる世界に憧れ、編集者という仕事に漠然とした憧れを抱いていました。でも、編集者として働くには大学を出て大きな企業に就職しないといけないと思っていた私は、高校卒業後、憧れの世界にチャレンジすることなく、一般企業の事務職として働きました。
それでも憧れる気持ちは持ったままだった私は、ある日、県内のグルメなどを発信している雑誌をコンビニで見つけ、山梨に雑誌社があることを知り、もしかしたら採用してもらえるかもと思い、雑誌の裏に書いてある電話番号に無理を承知で連絡しました。最初は、「事務職の人がなぜ雑誌社に入りたいのか?」と不思議がられましたが、熱意が伝わり、採用していただけることになりました。
憧れの雑誌の世界に入ってからは、仕事が本当に楽しくて「寝なくてもいい」と思うくらいでした。20歳から24歳までの間は、締め切り前は帰れないことが当たり前という働き方をしていたのですが、24歳で結婚することになった時に、「この仕事は結婚後も続けられる仕事ではないよね?」と周りからも言われたし、自分自身もそう思い、退職しました。
退職した後も、業種は違うのですが働くこと自体はやめず、出産なども経験しながら過ごしました。それでも、大好きだった編集の仕事がずっと忘れられず、27歳の時に2人目を出産した後、出版業界に再チャレンジすることにしました。
当時下の子はまだ0歳で、パートタイマーからスタートするカタチで雇っていただきました。就職した出版社では、企画を考えたり、広告営業をしていたのですが、編集の仕事は本当に面白いなと思いながら、一生懸命働きました。

 

仕事と子育てとの両立に悩み始めた時に決断した「独立」という道
「私は何がしたいんだろう?何がしたくないんだろう?」と考え続ける日々


パートとして勤め始めた会社で、正社員になり、役職もつき、ステップアップしていく中、「女性」ということでうまくいかない部分も出てきた頃、気付けば、自分は35歳になり、子どもは小学校5年生になっていました。
その時、私はこれからの人生「何がしたいんだろう?」「何がしたくないんだろう?」「子どもとどんなふうに過ごしていきたい?」ということをすごく考えるようになりました。

出産や子育てをしながらも、ずっと働き続けてきた私は、子どもたちを保育園や学童のお迎えに行くといつも一番最後になってしまうという生活をしていたため、子育てにおいて「子どもの初めて」に立ち会えなかったという心残りと、家に帰ってきた子どもに「おかえり」と言いたいという夢を持っていました。それを考えたときに、子どもがいる女性にとって、決まった時間で働くことがすごく大変だということに気づきました。特に私の場合は、企画や文章の作成など場所も時間も関係なくできる仕事なので、9時から18時まで働くという時間の壁さえクリアできれば、もう少し子どもとの時間がつくれるのではないかと思い、仕事をする時間を24時間の中で考えてみようと思ったんです。
そして、子どもが小学校6年生になる直前に努めていた会社を退職し、小学校の残り1年間は個人事業主として働き、学校から帰ってきた子どもに「おかえり」を言うという夢を叶えることができました。

好きなことで、生きるのは大変なことですし、「私はどうしたいんだろう」と考えた時に「社会に参加したい」のか「社会で活躍したい」のかで何をすべきかということは全然違うと思います。だから、今でも「自分がどうしたいのか」ということを自分自身に問いかける時間を作って確認する作業をしています。

個人事業主から会社設立へ
自社で取り組むテーマを決めるきっかけとなった1人の障がい者の方との出会い


個人事業主として働きはじめてから、「今の働き方でいいのか」、「今の暮らし方は私のスタイルに本当に合っているのか」と考える女性は私以外にもいるのではないか、それなら同じ考えの方たちと一緒に働けたらと思い、2018年にチラシや冊子のデザイン編集を行う「anlib株式会社」を設立しました。

私たちの主な仕事は、依頼主の要望に応えてチラシや冊子の企画をしたりデザインをすることなのですが、設立してからずっと、自分のメディアを作りたい、自社で何かを発信していきたいという思いを持っていました。でも、自分のメディアを作るとなると、すごくお金がかかるため、なかなか踏み込めずにいました。それでもずっと、自社で発信するとしたらテーマを何にしようかと考えている中で、グルメや移住、観光など、すでに多くの企業、それも大企業が取り組んでいることに挑戦することには魅力を感じず、自分たちだからできることは何かとずっと考えていました。

 

そんな時に、取材先でたまたま一人の障がいのある方に出会いました。大人になってから障がい者の方と接することが初めてだった私は、その方を取材するとき、すごく緊張して、失礼がないかと考えすぎてしまい、普段ならしない気の遣い方や話し方をしてしまって、その日はすごく落ち込みました。その方とは、その後も何回かお会いする機会があったのですが、ある日一緒に食事をしている時に、彼が障がい者であるということを忘れていた自分がいて、この感覚は初めての感覚だな、すごく大切な感覚だなと思いました。
そう思った時、障がい者の方たちやそのご家族の生活は、当事者でない限り知る機会がほとんどないことに改めて気付かされました。これだけSNSが発展していてもその壁はなかなか取り除けなくて、当事者同士の情報交換の場はあるけれど、第三者が障がい者の方やご家族と交流できる場はなかなかない。一方で、いつ自分自身が当事者になるかもわからない、ある日突然当事者になるかもしれないのに、全く知らないというのはどうなのかと思い始めたんです。

でも、私みたいな福祉を知らない、全く関係ない人が発信して、嫌だなと思われたり、当事者でない人が語るなと言われるかもしれないと思うと、なかなか踏み込めませんでした。そんな中、いろいろな方とお話していると、「当事者ではないからこそ、できることが絶対ある」と言ってくださる方がたくさんいらっしゃいました。それでも半年くらい踏み出せずにいたのですが、第三者だから話せることや視点が必ずあって、第三者だからこそ障がい者の方と地域をつなぐきっかけをつくる立場になれるのではないかと感じ、思い切って福祉というテーマに取り組んでみることに決めました。

福祉の分野に関わり、見えてきたこと、広がっていく関係性


福祉に取り組もうと決めて最初に取り組んだことが、2019年に発行を始めた-福祉の視点から山梨を伝える-「anko」という地域福祉を取り上げたフリーマガジンです。本当に素人目線で細々と始めたのですが、「障がい者の方と地域をつなぐ」という視点で発信している方が当時いなかったこともあり、県の広報誌や新聞・ラジオなど、様々なメディアが取り上げてくださって、いろいろな方に知っていただく機会をいただきました。メディアに取り上げていただいたことで、当事者団体の代表の方から連絡をいただいたり、福祉関係の施設の方から見学に来ないかとお声がけいただいたり、どんどん輪が広がっていきました。私も時間さえあれば見学に行ったり、そういう方たちのご自宅に伺ってみたり、そういうサークルに参加してみたり、どんどん福祉の分野への興味が深まっていきました。福祉というテーマに取り組んでみて感じていることは、今までで一番知らない世界を知れて楽しいという感覚でした。また、福祉に携わっている方たちにはものすごく熱い方が多いこと、当事者の方たちも様々な取組をされていること、そして、福祉に関わりのない人たちの中にも福祉に関わってみたいと思う人が多いということにも気付かされました。

「anko」の発行を通じて、福祉の分野の方はもちろん、「福祉の分野に関わりたいけど関わり方が分からないから何か一緒にやらないか」と言ってくれる方とも知り合うようになってきた中で、福祉の分野にある様々な課題を教えていただきました。それらの課題の中には、私たちがお手伝いできる可能性があるものもあることを知り、今は様々な視点から福祉という分野を取り上げたプロジェクトを企画して活動をしています。
私は「障がい者は支援されるだけじゃない」と心から思っていて、例えば、私たちが「いえなか美術館」や「障がい者アートのレンタル事業」などで扱っている「障がい者アート」には様々な可能性があると感じています。アート作品に触れることで見た方が、元気をもらったり、癒されたり、単純に心を打たれたりする、これは障がい者が支援されるのではなくて、誰かを支援する側にも回れるという一例です。口で言うだけで伝えることは難しいので、いろいろな仕掛けを通じて、まずは様々な方に関わってもらうことで、障がい者の方の可能性を感じてもらえたらと思っています。

<プロジェクトのご紹介>

フリーマガジン「kaigoto」
福祉業界の人手不足の解決に繋がればという思いから、進路決定前の高校生に向けて、福祉の仕事の魅力を発信する雑誌。
年1回発行し、山梨県内の全高校へ配布。
インクルーシブイベント「border?」
性別や年齢、文化や障がいなどのダイバーシティを認め合い、ともに同じ時間を楽しむイベント。「kaigoto」発行に合わせて開催。

「いえなか美術館」
障がい者アートを展示する小さな美術館。
毎月県内のどこかの施設やお店で開催。
(山梨県の事業として令和5年度まで開催)
障がい者アートレンタル事業
障がい者アートを作者の定期的な収入に変えられたらという思いから始まった事業。企業や個人へ月額制で障がい者アートをレンタルし、収益の一部を作者の収入に変えている。

「annoa-暮らしのお店-」
月に1回第4日曜日に事務所にて開催。
コロナ禍に販売場所がなくなってしまった福祉事業所の製品を販売する場として始まった事業。あえて人気店の商品と一緒に並べたことで、福祉業所の弱点であった「商品の見せ方」も磨かれ、現在は、人気店に負けないパッケージ作り、商品づくりをされる福祉事業所が増えている。

自分ができることから少しずつ始めることが大切
小さなことでも挑戦し続けることはとても素敵なこと


すべての企画、すべてのプロジェクト、事業を考えるときに、いつも思うことは「私は何をしたいんだろう?何をしたくないんだろう?」ということ。これは、自分の中にテーマとしてあって、やるやらないについては、仕事だけではなくて、全てにおいて無理してやることはないと思っていますし、「本当にやりたいと心から思っているのか」、「どんなふうになりたいのか」ということをすごく考えて取り組んでいます。そして、最近は、「みんなはどう思っているんだろう」ということをもっと知りたい、いろいろな考えを知ることで新しいことが生まれるのではないかと考えています。

今後目指していることは、福祉事業所を立ち上げること。まだまだ夢物語のような状態ですが、障がい者アートやものづくりをする時間が多くとれて、定期的に商品を販売できる事業所をつくりたいと考えています。

これから何か活動をしたいと思っている方には、誰でも挑戦できるし、何でもできるということをお伝えしたいです。
そして、大切なことは、結果よりも「自分で変えようとした」とか、「挑戦してみた」とか、「今日何かをやってみた」とか、「明日これをやってみようと思ってやってみた」という、挑戦することだと思います。小さいことでも挑戦し続けるということが、すごく素敵だなと思っています。

私自身、大きいことや立派なことは全くできないので、自分ができることから、面白そうだなと思ったことから少しずつやっていって、それに注目してくれる方が多くいたから、今の私がいると思っています。ぜひ、みなさんも挑戦し続けてください。

 

 

anlib株式会社のご紹介

■住所
 甲府市貢川本町13-27 hana B
■お問い合わせ先
 info@anlib.co.jp / 055-215-6048
■インスタグラム
 https://www.instagram.com/anlib.anko/(別サイトへリンク)

■事業内容
 企画・編集・デザイン
 福祉の視点から地域(山梨)を伝える「anko」発行
 障がい者アートのレンタル事業 他